AWAY TARGET

 

<裏話・その1>

 本作品は第20回池袋演劇祭で大賞を受賞した作品である。受賞するだけのことはある所謂「良くできた脚本」である。なお、原作は「高橋彰規(=座長)」で、脚色が「はなださとし」という事になっているが、その脚色というのは基本骨格を大きくゆがめるほどの「容赦のない書き換え」だったという。ただ、登場人物の名前はほぼ原作通りに残されたようだ。たとえば「美(み)」なんて韓国姓は存在しないとの指摘はあったものの、そのままの形で残された(脚色段階で見た目が似る「姜(かん)」に変えようかとも思ったが、「かんくじょん」は語呂が悪すぎる)。まあ、原作者の思いを残してやろうとの配慮からかあったのだろうと考えよう(ちなみに「美紅牀(み・くじょん)」の名前は英国の伝説的パンクバンド「The Clash」のミック・ジョーンズから来ているらしい。その娘の英修(よんす)の名は朴正煕の嫁はんの「陸英修」からであろう。その他、多くの役名に何故か「ドーベルマン刑事」の影響が色濃く出ている。[役名に関しては、もうひとひねりした方が良いと思うぞ、座長])。

 本公演の初演が2004年であった事から分かるとおり、書かれたのは金大中事件から30年たった年である。この年、韓国側でこの事件に関る詳細な資料が開示され、脚本を書き上げる上での重要な参考文献となったのは事実である(たとえば、竜金丸の大阪港からの出港と経路はほぼこの開示資料に基づいている)。しかし、その資料には当然「飛ばし屋」なるものの存在は記述されていないし、一人の少女が金大中氏とともに拉致されたというのもフィクションである。史実に基づきながらも、想像力の限りを尽くしてエンターテーメントに徹した作品、それが「Away Target」なのである。(あっ、そうそう。「Away Target」というタイトル自体も英語的に微妙だったが、原作者の意図を酌んで、そのまま使うこととしたらしい。今にして思えば、まあ、これで良かったような気がする。)

↑ 初演のオープニングムービーより

[初演]

2004年5/3-5 大塚・萬スタジオ


作/高橋彰規×はなださとし

演出/はなださとし

照明/島田康和[S.P.C]

音響/畠山慎一[SOAP]

映像/はなださとし

制作/演劇レーベルBö-tanz

キャスト

美英修/市川麻美・永浦暁(ダブルキャスト)    美英修(現在)/羽鳥友子 加納錠/木村淳

志村暖/高橋彰規    二木仁/千葉いづみ    美紅牀/酒田恵美子    高野勝/山口浩正

三森咲/市川好美    西谷一郎/西村亮    坪井則夫/牧野達哉    栢木有美/原麻理子

桜田秀美/嶋田貴秀    真壁涼/花田智    平松組組員他/太田直人・高宮敏昭

 1970年代日本。アジアのケネディといわれる民主活動家「DJ」が来日。軍事政権下の韓国現政府は「DJ」の政治活動を危険と判断、日本での暗殺をKCIAの実働部隊「仙台坂別館」に指令した。公安警察の警視正”高野”はその情報を入手するも、日本の防諜システム上「目を開いて監視する」以外の手段を持たない。例え「韓国人同士の問題」であったとしても、主権国家である日本の国内で他国の公権力を行使させるわけには行かないと判断した高野は非合法の飛ばしのプロフェッショナル、加納とそのチームにDJの拉致と「飛ばし」を依頼する… 軍事政権下の韓国、北朝鮮、そしてアメリカの陰謀が渦巻く中、加納たちはDJを無事「飛ばす」ことが出来るのか?

 1973年8月8日に起こった金大中事件を下敷きしつつも、想像力の限りに縦横無尽に展開する「ハイパー・ポリティカル・アクション巨編」。

<裏話・その2>

 脚本執筆時(いや、正しくは「脚色」時か?)、はなださとしは首に激痛を覚え最悪の状況だったという。簡単に言えば「変形性椎間板症」ってやつだったのだ。頸椎の椎間板の3箇所が変形し脊髄を圧迫しているという、聞くにおぞましい病気だ。指先が震えるのを不審に思い、病院を梯子して、最後にMRI撮影の結果、その病気が明らかになったのだという。「外科的手術以外、治す方法はありません」と医者に真顔で言われ(セカンド・オピニオンも同一な診断結果)て、かなり凹んでいたところに、この激痛である(←多分に「メンタル」な要因もありそうだが)。あまりの痛みで、歩くことも、更には横になる事もできなかったという。鎮痛剤を飲んで眠ることは出来るのだが、痛みで3時間後には起きてしまう。そんな痛々しい有様だったという。で、「痛みで仕事も出来ず、眠ることすら出来ないのなら、その時間を利用して脚本を書こう」と思い立ったのだという。…って、書けるか、普通? 

[再演]

2008年9/19-23 大塚・萬スタジオ


作/高橋彰規×はなださとし

演出/はなださとし+高橋彰規

照明/島田康和[S. P. C] 

音響/畠山慎一

制作/演劇レーベルBö-tanz

制作協力/Turtlemusee

[大賞受賞凱旋公演]

2009年9/5-6 南大塚ホール


作/高橋彰規×はなださとし

演出/はなださとし+高橋彰規

照明/島田康和[S. P. C] 

音響/畠山慎一

舞台装置/高橋工務店

衣裳/パトリック・ファブリック

制作/演劇レーベルBö-tanz

制作協力/Turtlemusee

主催/(財)としま未来文化財団

   ・豊島区・ 演劇レーベルBö-tanz

キャスト

美英修/市川麻美 美英修(現在)/羽鳥友子 加納錠/木村淳 

志村暖/牧野達哉[銀鯱マスカラス] 二木仁/津本泰雅[劇家 大熊猫] 美紅牀/酒田恵美子

高野優美/真美子[客演] 三森咲/市川好美 西谷一郎/磐田健二[客演]

坪井則夫/嶋田貴秀 栢木有美/湯川美波[客演] 桜田秀美/磐田健二[客演]

剣崎龍次/高橋彰規 金城哲/花田智

平松組組員他/六川渉[劇団時計]・林田雄一・牛居朋広・高澤智・林健二[虹色くれよん]

<裏話・その3>

 再演はないものと誰もが思っていた本作品であるが、ひょんな事から、それも唐突に、再演が決定する。第20回池袋演劇祭参加において上演が予定されていた新作の脱稿が不可能となってしまい、仕方なくピンチヒッター的に起用されてしまったという事なんだ。えっ? 脱稿が不可能となった理由? 聞くの、それ? 詳しくは言えないが、脚本家はなださとしがお務めしている「某研究所」でちょっとした問題が発生し、同氏がその解決に借り出されて、執筆の時間が取れなくなってしまったためだそうだ(←本当か嘘かは分からないが、同氏は翌春に、意表を突く「 昇格(+昇給)」を果たしている。この事実から、この時、某研究所に対し何某かの貢献をしたのだと想像できる)。しかし、どのような理由があったにせよ、この時点での「はなださとし」は「書けなくなった脚本家」である。書けなくなった脚本家はもはや「脚本家」ではない。この作品をメインで演出した同氏は「これが最後の演出作品となるだろう」と腹を括っていたという…

     ↓で、これが、やっつけで作成した再演のチラシ(一晩で完成!)

<裏話・その4>

 「これが最後の芝居だ」と腹を括った同氏ではあったが、それ故、演出にも力が入った模様だ。普通なら空回りしてしまいそうなものだが、その気合いを座長、劇団員、そして客演さんが見事に受け止め、絶妙のグリップ感で芝居が進行することとなった。ある意味、ビックリである。で、第20回池袋演劇祭大賞受賞である。本当にビックリである(◎-◎;)

「人間万事塞翁が馬」とはいうが、世の中分からないものである。芝居をやめることを決意していた同氏も、そんなことどこ吹く風って感じで「来年も演劇祭に参加しよう」だって… 


    ↓で、これが受賞翌年(2009年)の大賞受賞記念公演のチラシ

キャスト

美英修/市川麻美 美英修(現在)/羽鳥友子 加納錠/木村淳

志村暖/牧野達哉[銀鯱マスカラス] 二木仁/津本泰雅[劇家 大熊猫]

美紅牀/酒田恵美子 高野優美/真美子[客演] 三森咲/市川好美

西谷一郎/磐田健二[客演] 坪井則夫/嶋田貴秀 栢木有美/湯川美波[客演]

桜田秀美/磐田健二[客演] 剣崎龍次/高橋彰規 金城哲/花田智

平松組組員他/牛居朋広・林田雄一 ・林健二[虹色くれよん]・山崎はじめ・伊藤健太郎

「拾う神あれば、捨てる神あり」とはよく言ったもんだ…あっ、逆か? このような理由によってか、「AWAY TARGETを語るとき、同時に『ある種の痛み』が伴う」と同氏は言う。さて、長々と無駄話を展開しまくってしまったが、やっと台本ダウンロードの時間が来たようだ。以下に『AWAY TARGET(2008年再演版)』を貼り付けておくので、同氏の痛み(心とか、首とか)を感じつつ読んでやって欲しい。ってか、とにかく読んでみ。

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